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オペラ座の怪人 (角川文庫)4042840019

オペラ座の怪人 (角川文庫)
先入観とは違う感触
本作は、ミュージカルの大ヒット作品としての印象が強いと思われます。
そこで描かれているイメージは、怪人と歌姫との悲恋の物語といったものでしょう。
そのような先入観を持って読むと、ちょっと期待はずれな感があります。

さて、本作では、ジャーナリストによるノンフィクションという形式をとって、
パリ・オペラ座で起こる歌姫間の主導権争いや、
新任の支配人への脅迫、殺人事件やシャンデリアの落下事故といった怪事件が、
すべて、オペラ座の複雑な地下の構造を熟知した「オペラ座の怪人」の仕業である、
という仮説を検証していきます。

とりわけ、スポットライトを浴びるのが、北欧出身の新進の歌姫、クリスティーヌです。
一見はかなく薄幸そうな彼女に一途に恋する幼馴染の貴族ラウル、
そしてふとしたきっかけでラウルがその存在を察知した「怪人」。
クリスティーヌは「怪人」によって歌の才能を開花させられたことから、
当初尊敬の念を抱いています。
「怪人」に嫉妬の炎を燃やすラウルの心理描写に、個人的に共感を覚えます。
しかし、やがて若い二人の間に着実に愛情が育まれていくのを見た「怪人」は、
ラウルの比ではない(笑)嫉妬心に苛まれ、次第に常軌を逸していく…。

後半は一転して、「怪人」に挑戦するアドベンチャーといった感です。
エキゾチックなイメージが眼前に浮かんでこないので、なかなか辛かったです。
そして結末。クリスティーヌの、慈しみというか、
「怪人」を救済する姿に、神々しいものを感じさせられます。
一番弱々しく見えた彼女が、ラウルよりも、そして「怪人」よりもよほど芯が強かった!
もっとも、そのような描写がごくわずかなのが残念です。

3者間の愛情に着目しているであろう、ミュージカルや映画も見てみようと思います。

オペラ座の怪人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)4150730539

オペラ座の怪人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
異世界に入っていけます。
映画を見て、これってこういう話なんだろうか、と疑問に思い本を読んだ。

昔の映画や本では異形の人って良く出くる。(エレファントマンとか、お化け屋敷とか、サーカスの小人とか、見世物小屋とか。)また、個人の技術をベースにした奇想天外なカラクリは、今よりずっと複雑だったり精巧だったりする。(今はメカニックよりIT技術者がヒーローですよね。)異形も工夫もカラクリも現在は排除の方向でなかなか現実に経験できないが、本書にはそれらが普通に存在する時代の怪しい雰囲気があります。この雰囲気が好きなら読み応えがあります。そうでないと読みづらいかもしれません。

例えば、エリックのトリックや生い立ちは、アルセーヌ・ルパンや江戸川乱歩等、昔の推理小説や怪奇小説などにも同様の雰囲気があった。精霊もフランス製の昔の作品でよく出てくるように思う。理詰めではなく怪しさを楽しめる。今より発表当時の社会の方が日常的な怪しさを許容しているので、作品のバックボーンが厚いのだと思う。読後はずっしりした感じが残る。今書かれる幻想小説とは本質的に比べられない。

さて、読後に気付いたのですが、なんと密室トリックの古典「黄色い部屋」の作者とのこと。それで懐かしかったのかと中学時代に戻りました。

ファントム〈上〉 (扶桑社ミステリー)4594015387

ファントム〈上〉 (扶桑社ミステリー)
2004年映画版オペラ座の怪人とは赤の他人でした。
オペラ座の怪人を扱った話には ガストンルルーの原作から派生した無声映画作品から映画だけでも8本、劇団四季をはじめ舞台ミュージカルとしての数え切れないほどの作品群、そしてこのスーザンケイの小説ファントム。と、実に幾種類もの怪人があり、それらの幾つかを観賞して今思うことは、それぞれはそれぞれが似て非なるもの。こう考えるのが今の私の思いです。始め、この小説がなぜ存在するのかも含め、混乱していましたが良く調べていくうちに原作に刺激されたスーザンケイが前後部分を含めた全体を書き表し独自の作品を作り上げたことををしりました。多くの方が言われているような2004年映画ではあまり語られな作品の前後もふくめた、同一作品群であると捕らえることにいささか抵抗があります。2004年映画版では純真無垢で一途な愛を追求してやまない登場人物達に感動、共感し、その勢いで空白部分を自己解釈したい。あの年老いたラウルが墓参するラストシーンを思えば、このスーザンケイの後半部分を展開させらることがとてもいたたまりません。やめてくれー!と叫びたくなる。この小説が他のオペラ座の怪人作品の前後を補完するものではなくこれはこれで一つの完結を持った一作品であってほしいですし、ましてや映画2004年版とは何の関係もない赤の他人であってほしいと願ってます。ジェラルドバトラーを昼のメロドラマの主役にしたくないのです。

ファントム〈下〉 (扶桑社ミステリー)4594015395

ファントム〈下〉 (扶桑社ミステリー)
一人の男、一人の人間として…
「オペラ座の怪人」の、波乱に満ちた人生の後半生を描いた下巻。
上巻と同様に、数人の「一人称」で語られています。まず、上巻から引き続き「ペルシア人」ナーディルが、スルタンの宮殿での危険と退廃に彩られた生活を語り、その後、原作・ミュージカルの舞台となったパリ・オペラ座に移ってからは、エリック本人とクリスティーヌの二重唱で愛情と恐怖の葛藤が狂おしく語られ、そのまま激情のクライマックスへ、そして、クライマックスを美しく彩るエピローグでは、年老いたラウールが静かに語ります。
目次を見た時には、「なぜ締めくくりが恋敵のラウール?」と思いましたが、読めば、彼にしか語れないということが、そして、彼が語るから、切なさが一層深まっているのだということが、よく解ります。
私は、映画の「オペラ座の怪人」を見た後にこの作品を知ったのですが、ジェラルド・バトラーはこの本を読んだのかしら?と思うくらいに、イメージが重なりました。(当時は原書が絶版状態でしたから、読んだ可能性は低いです。とすれば、ジェリーの理解力・表現力は凄い!)

「悪魔」「天才」「化け物」「天使」「幽霊」「怪人」…様々に呼ばれ、畏怖の対象であり続けたエリック。でも、彼は一人の人間なのです。愛し、愛されたいと願う、一人の男なのです。その才能と容姿から、時にはファンですら忘れそうになるこの単純なことを、この本は丁寧に描いています。虐げられ、裏切られて、心をずたずたに引き裂かれながら生きてきた一人の孤独な少年が、人として、最後の最後に幸せを手に入れられた時、誰もが涙せずにはいられないでしょう。
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